あの頃の私へ 。お元気ですか? デビューして4年、引退して2年が経過した今、この手紙を書いています……【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第50回【最終回】
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでほしい」 赤裸々に綴る連載エッセイ「私をほどく」第50回【最終回】。
あの頃の私へ
お元気ですか? デビューして4年、引退して2年が経過した今、この手紙を書いています。
デビューしたあの頃、貴方の世界はがらりと変わり、今まで言われたことがないような誹謗中傷を浴びせられ、文字通り全てをこの世の中に晒し、晒されてしまった。
怖かったし、苦しかった。でも誰にもそんな感情を漏らすことなく、「そんなこと言うやつのお陰で売れてよかった」と気丈に振る舞ってたのを覚えています。
「専属だからもう少し努力しないと」という言葉で全て片付けていたけれど、デビューして1ヶ月で落ちた5kgの体重は努力なんかではなく、私の心の悲鳴でした。
何かあったときに人を頼れないのは私らしいなと思うけれど、もう少し年齢相応に騒いで、感情を飲み込まずに素直に傷ついたと言っていればと今でも考えます。
でも、あのとき絶望から這い上がり、戦い続けたから今の私がちゃんと生きています。未来へ時間を続けてくれて本当にありがとう。貴方の苦しみは私が責任を持って引き受けます。
あの2年間にあったもの。
現場の人やマネージャーからの褒め言葉、クラファンの成功、ファンの人からもらう応援の言葉、「楽しい」と素直に思ったきらきらとした眩しい時間。
「私なんてもう幸せになれない」と咽び泣いた夜、かつての友人からの「セックスさせて欲しい」という嘆願、何日も消えなかった内出血の跡、数え切れないくらいの誹謗中傷、手放せなくなった睡眠薬。
眩しさの反面、深い影が纏わりついて貴方を苦しませていると思います。
それは今も変わりません。苦しかった記憶を辿れば、今も涙が出てきます。活動した期間と同じくらいの時間が経てば、傷は癒えるだろうと思っていたけれど、それは少し見通しが甘かったと思いました。しかしながら、ただ苦しむだけではありません。膿んだ傷口はいつのまにか分厚い瘡蓋を作り、徐々に痛みが薄れていっています。少しずつ苦しみを手放すことができています。
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